好調の永代供養

一九九七年三月二五日、東京・赤坂にあるホテルキャピトル東急は、異常な空気が漂っていた。 自動車関連の新聞・雑誌から放送まで、あらゆるマスコミを対象にT自動車が技術発表を行うというふれこみだったが、敏感な記者たちは、これが単なる技術発表。
てはなく、なにか新しい方向性が示されるのではないか?という期待をもって集まっていたからである。 その予感は的中した。
社長のOは、かねてから提唱してきたようだ。 プロジェクトの一環として、ハイブリッドシステムが完成に近づいたことを公表したのだった。
「株山費は従来のガソリンエンジン搭載の乗用車に比較して半分。 排出するC02も半減、その他の排出ガス(CO、HC、NOX) は、現行の規制値の一O分の一を達成した新型車を年内(一九九七年)に発売したい」という内容は、単に自動車関係者から注目を浴びただけではなく、社会的なインパクトを与えた。
ハイブリッドシステムの原理が示され、実験中のエンジン本体や電池などの構成部品も公開された。 このシステム開発の立役者Yや、それを搭載した市販車『プリウス』の開発責任者のU(現・取締役第三開発センター副センター長)がそれらの解説を行った(その時点ではまだプリウスの名も、そのクルマの概要も伏せられていた)。
多くの参会者の興味はそのクルマが果たしてどの程度の価格になるか、であった。 というのも、ハイブリッドシステムは、構造が複雑で高価であるというのが自動車に知識をもっ人びとにとっては常識だったからだ。
まだ、世界中、でどのメーカーもそれを市販したことはなかったし、市販を表明したところもなかった。 記者団に固まれた技術担当副社長のWは「市販価格は同クラスの従来のクルマより五O万円も高かったら許されないだろう」と、価格帯について含みのある発言をした。

技術発表はしたものの、この時点ではまだプリウスは完成していなかった。 走行中にガソリンエンジンから電気モーターに切り換え、またその逆に電気モーターの駆動からエンジンによる駆動に切り換えたとき、当然出力もトルクも大きく変化するはずだ。
そうなると何らかのショックが発生する。 それを乗員に感じさせないようにするにはどうすればいいかという問題が完全に解決したわけではなかったのだ。
エンジンを走行中に停止させたり、始動させるわけだから、普通の成広見なら当然のこととしてクルマの動きに、ギクシヤクした感じが出そうになる。 事実、開発段階ではとくに再始動のときのショックが大きかった。
それを取り去ることはハイブリッド車開発の大きなポイント守であった。 この記者会見以前において、T自動車が公表していた、二一位紀の自動車の姿をしめすプロジェクトはどのようなものであったか。
それは、燃費の向上とC02削減を柱としているが、内容はまったく異質の方式・機構を並列的に示したものだった。 すでに発売していた電気自動車(RAV4のボディをそのまま使い、そこにバッテリーを搭載してモーターで駆動するもの)や、従来型のエンジンを改良して希薄燃焼(リ−ンパ−ン)によって株昔を抑える『D4』。
この実用化はもっとも早く、九六年秋に一般的な乗用車の代表ともいえるコロナに搭載して発売していた。 同じく駆動は電気モーターを使うが、水素股蔵A口金による燃料電池を使用するものや、そのほかに、ディーゼルエンジンを改良して行く方式までが示されていた。
だが、Tがすでに開発を進めているハイブリッドエンジンについては言及していなかったから、この記者会見のインパクトが大きかったのは当然かも知れない。 ユーザーのクルマ選択にも新しい要素がいま、人びとの生活とそれを支える世界の産業は大きな転機を迎えている。

人口の爆発的増加、それにともなう食糧とェネルギ−源の絶対的な不足はもっとも深刻な問題だ。 発展途上国を中心に進行している人口の激増、逆に先進国では絶対数が減るなかで、高年齢化が進み、労働人口に老人福祉のための負担がより重くのしかかるとしている。
一方、地球環境に目を向ければ、以後、驚くべき速度で使い続けてきた化石燃料の消費がもたらした結果は、大気中に放出された一酸化炭素による温室効果をもたらし、それが地球を温暖化に導くことが明らかにされた。 加えて、フロンガスによるオゾン層の破壊が、有害な紫外線を地表に降り注寸原因になることも指摘されるなど、人類全体を襲う地球的な規模の汚染や危険が、遠い未来のことではなく、現在の状況を続けて行くならば、ほんの数十年後には間違いなくやってくるという危機感が作用している。
この地球上で人類はあと二OO年、いや、もっとも厳しい観測をするならばあと一OO年を繁栄のなかで過ごすことができるだろうか。 きわめて根源的な問題だけに、技術的にも政策的にも、よほど思い切った対策を採らない限り、人類の繁栄はおろか生存すら保証できない状況になっているというほかはない。
しかし、人間の某奉的な行動とされている自由な移動への欲求と、それを具現化する自動車の使用はまずまず多様な展開を示している。 大衆の求めるものは、これまで自動車メーカーが競ってきた走りの性能や居住性の向上や、好ましいデザインであるが、それに上乗せして、『環境にやさしいこと』や『限られたエネルギーを効率的に使うこと』が、ようやく社会的な要請としてユーザーがクルマを選ぶ要素のなかに入りこんできた。
したがって、メーカーとしてかつてのように美しいデザインや、自動車の機能的な魅力だけを誇るのでは、商品としての完成度が低いと評価されはじめたのである。 共存、いやもっとひろく全地球的な自然環境のなかでの共存・共栄をなし遂げることが、これからの自動車に課せられた最大のテーマとなる。
有限な化石系エネルギーを含むすべての資源をいかに節約して、より有効に、より長く利用することができるか?という問題を抱えているのだ。 自動車交通には事故や危険がつきものとされているが、それをすこしでも少なくするためには、三つの方策がある。
ひとつは道路や関連施設などの交通環境の整備であり、もうひとつは法令などの規制措置である。 さらに、自動車というハードウェアそのものに関して、危険を避ける機能を備えること、また起きてしまったとき人間に対しての被害を最小限にとどめるための性能がある。
これをひとことで安全対策と呼んでいるが、自動車が二一世紀に入っても人びとから信頼され、愛されて使われるためには、必要不可欠の性能と把握すべきものといえるだろう。 このように、自動車産業に要求される技術的な課題は極めて多様で、しかも複雑なものになってきた。

それらの性能をいかに商品として人びとになじませるか?が自動車メ−ヵ−の生存を賭けた重要なポイントになりつつある。 日本国内はむろんのこと、全世界に数多くの車種を送り出してきたT自動車鮒は、日本のトップメーカーであるとともに、世界においても自動車の世界のリーダーカンパニーとしての重責を負っていることは事実である。
当然、環境問題と安全対策でも、他社に率先して研究を進め、販車に展開して行う義務があるということになる。

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